最近相談を受けたイップスの克服へのアプローチ方法について書いていこうと思います。
私は10代の頃より音楽活動をメインでやってきましたので、武道やスポーツに本気で取り組んだ経験はありません。(楽器演奏や発声などでもイップスは発症するそうです)
しかし歌や楽器演奏は間違いなく身体表現ですし、とくに歌に関しては所謂運動神経がいい人の方が上達が圧倒的に早いというデータがあります。(ある程度のレベルまでは)
今回イップスに関して実際にクライアントさんの声を聞き、書籍、武道の専門誌などで調べていく中でマインド、情動、潜在意識が深く関係していることを知り、私がこのサイトで提供しているマインドの使い方、コーチング理論の活用方法、ワークなどが役に立つと確信しました、
今回の記事では『コーチング的イップスの克服方法』をコーチング理論をベースに解説していきます。
なお、今回ご紹介するのはあくまでマインドに対してのアプローチ方法ですので、技術的な原因によるイップスに関してはそれぞれのインストラクター、専門家にご相談ください。
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1.イップスとは何か?
イップス(Yips)
イップス(Yips)は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害のことである。本来はパットなどへの悪影響を表すゴルフ用語であるが、現在では他のスポーツでも使われるようになっている。
イップスという用語は、1930年前後に活躍したプロゴルファーのトミー・アーマーが、この症状によってトーナメントからの引退を余儀なくされたことで知られるようになった。
アーマーは1967年に出版された自著『ABCゴルフ』の中で、今までスムーズにパッティングをしていたゴルファーがある日突然緊張のあまり、カップのはるか手前のところで止まるようなパットしか打てなかったりカップをはるかにオーバーするようなパットを打ったりするようになる病気にイップス(YIPS、うめき病、yipeは感嘆詞で「ひゃあ」「きゃあ」「うわっ」といった意味)と名づけた。
この症状を説明するために、ゴルファーの間では「ショートパット恐怖症(twitches)」「よろけ(staggers)」「イライラ(jitters)」「ひきつり(jerks)」などの表現がされてきた。
イップスの影響はすべての熟達したゴルファーの半数から4分の1くらいに及ぶという。アメリカ・ミネソタ州の大病院メイヨー・クリニックの研究者によれば、すべての競技ゴルファーのうち33〜48%にイップスの経験がある。25年以上プレーしているゴルファーにそうなりやすい傾向があるようである。
しかし、イップスの正確な原因というのは未だ決め手がない。一つの可能性として、あるタイプのゴルファーに関して言えばそういった現象は加齢に伴う脳の生化学的変化の結果ではないかと考えられている。プレーに関係する筋肉を使いすぎたり、協調や精神集中に迫られることで、問題が悪化する場合もある。また別に、イップスの本当の原因として局所性ジストニア(focal dystonia)がその可能性の一つとして言及されることもある。
wikipediaより。
まとめますとイップスとは、
- イップスは誰もがかかってしまうリスクのある精神的な症状
- 一般的には外的な要因(過度のプレッシャーなど)がきっかけで引き起こされる
- ある日突然発症する
- 普段できていたことが無意識による筋肉の硬直などの要因により突然できなくなる
となります。
2.イップスの原因とマインドの関係
イップスには確実にコレだという原因があるわけではないとされています。
しかし実際にクライアントさんの話を直接聞いたり、弓道の達人のインタビューなどを読んでいくうちにイップス発症のキッカケと共通点が見えてきました。
そのキッカケとは本人の情動が動いた時です。(多くがネガティブな情動です)
例えば他者(観客、相手選手、自分のチームの選手)からの言葉、非言語(ジェスチャー、リアクション、表情)などを受け取って自分の感情が動いた時を境に発症している人が多くいるということです。
一見すると余程の暴言やキツいこと、心ないことを言われたのか?・・・と思われるかもしれませんがそうとも言えないのです。
心が動く時というのは何気ないキッカケで動きます。
自分の予想を大きく超えることなどで案外簡単に動くものなのです。
スポーツではありませんが、サプライズパーティーやサプライズプレゼントなどは感動しやすく記憶(思い出)に残りやすいですよね?
自分の予想出来ることを超えていればいるほど情動を揺さぶり、記憶に残りやすいということです。
例えば、何気ないことだったとしても、予想していないことを突然言われた時に一瞬フリーズしたような感覚、もしくは実際にフリーズしてしまった経験はありませんか?
『えっ、・・・・・』
という瞬間です。
悪用されると危険なためにあまり詳細には書けないのですが、実はこのフリーズした瞬間というのは情動に記憶が残りやすい瞬間なのです。(無意識の深い部分に残ります)
試合中、もしくは真剣に取組んでいる練習中というのは臨場感が高い状態です。
その時に外部の刺激などで情動が動き、『えっ、・・・・・』のフリーズ状態になった時の自分の行動と情動がセットで記憶されます。
そして次にその行動をした時にその情動も一緒に引っ張り出されます。(繰り返し追体験するイメージです)
もしこの時の情動がネガティブなものだったら、その行動の度にネガティブな体験を繰り返すことになります。
このネガティブな情動を無意識が感じ取り、その行動の度、もしくはイメージしただけで筋肉が硬直したりして満足いくパフォーマンスが出来なくなってしまうのです。
本人としては無意識下で起こっていることなので原因はよくわかりませんので不安やストレス、パニックなどを感じることもあると思います。
また、その他の原因としては慢性的な過度のストレスなども要因ではないかと言われています。
その場合も上記と同じで行動の度に負の情動が強化されるというスパイラルにはまってしまっているということです。
3.イップス克服へのアプローチ
今回はかなり具体的なワークを紹介していきます。
実は先ほどの”負のスパイラル”はアンカーとトリガーの関係が成立しています。
アンカーとトリガーというのはトリガー(引き金)の動作や認識(何かを見る、聞くなど)をすることで”ある意識状態”(アンカー)を呼び出す、引っ張り出すという意味です。
この場合、キッカケが起こった時の動作がトリガーで無意識が感じた情動がアンカーです。
さてここで考えていただきたいのが、この時の情動が”最高の成功体験”だったらどうでしょうか?
イップスの状態というのはスポーツや武道で当たり前のように繰り返す動作にトリガーが設定され、アンカーにネガティブな情動が設定されています。
このネガティブな情動をネガティブではないもの、もしくはポジティブなものに置き換えることが出来れば解決することができます。
①リラックスする
まずはじめにすることが、コーチングにおいて最も重要と言ってもいいリラックスです。
なぜリラックスが重要かと言いますと、情動をコントロールする際に抽象思考が必要になります。
簡単にいいますと、過去のネガティブな情動やエピソードに囚われている人がそのことを思い出しただけで感情的になっていたのでは抽象思考は難しいといえます。
『あっ、そんなこともあったね・・・』と思えるくらいの高い視点から俯瞰する必要があるのです。
誤解を恐れずに言いますと、他人事や映画を見ているような感覚でしょうか。
ここでは逆腹式呼吸という呼吸法を使ってリラックスを深めていきます。
- まずリラックスできる椅子に座ります。(背もたれがありクッションの良いものが理想です)
- 息を吸い込む時は少しお腹を締める感じで、お腹が膨らむのを防ぐイメージで吸い込んでください。
(体感としては入ってきた空気の塊に体全体で均等に少し圧をかけているようなイメージです) - 息を吐く時はその圧を少しずつ解放してだんだんお腹が膨らんでいけば理想的です。
体の感覚が薄れて、ふわふわしてくるぐらいまで続けてみてください。
呼吸は極端にゆっくりする必要はありませんが自分の落ち着けるペースを見つけるようにしてください。
行きの通り道を意識してみたり空気や息の温度などを感じながらリラックスを深めていってください。
②恐怖感を思いっきり強めてみる
このワークはイップスではなく別の恐怖体験を使ってください。
どんな恐怖でもいいのですが自分が本気で怖いと思っている恐怖感を少しずつ強めて行ってみましょう。
- 失うことへの恐怖
- 死に対しての恐怖
- 物理的なものへの恐怖
- 見えないもの、知らないものへの恐怖
恐怖症などでも構いません、自分が一番怖いと思うものを少しづつ強化して行ってください。
例えば死に対して恐怖を感じる人はどんな死に方が一番恐怖を感じるか、どんな死を見るのが怖いかどんどん想像を膨らまして、全人類が滅亡するくらいまでやってみます。
本当に冷や汗をかけるくらい体感を伴っていれば上出来です。
自分のイメージだけで行うのが苦手で上手くいかない人であれば、ホラー映画や心霊スポットを活用してもいいです。
初めは怖いだけかもしれませんがだんだん余裕が出てきます。
どんな怖い映画も5、6回見れば恐怖は薄れてきますよね?
同様にこのワークもだんだん慣れてきます。
そして、『な〜んだ、こんなもんか・・・』と、一気にシラける前に自分の情動を観察してください。
初めはあんなに怖がっていたのにいつからか冷静に怖がる自分を観れていませんでしたか?
しかも俯瞰して、客観的に。
これは情動を自分でコントロールできるんだということを納得するためのワークです。
外部の要因によって起こされた情動はコントロールできないと思いがちですが、どのような捉え方をするかは過去の記憶が大きく影響します。
少し極端な例ですが、日本に育った私たちと内戦が当たり前の環境で育った人では死に対する恐怖もまるで違います。
自分で限界まで恐怖を強めてそれを何度か繰り返すことで、『最大限強めてもこんなもんか・・・』という底が見えることで一気に弱まると思います。
③恐怖感を味わう+別の恐怖
次にその恐怖を大きくしたり、小さくしたりしてみてください。
恐怖を感じ、味わってみてください。
可能であれば別の恐怖とまとめてみてください。
その時の体感もよく観察しておきます。
④自分の恐怖にポジティブな感情を上書きする
さてここまでは、イップスとは別の情動(恐怖)でのワークでしたが、ここからイップスの情動を操作していきます。
これまでのワークを行っていただくと実際のエピソードの記憶と情動はセットではあるけど同じものではないことを体感して貰えていると思います。
もし同じであれば記憶が薄らいでいないのに情動が小さくなったり大きくなったりする筈がありません。
イップスも同様で、キッカケとなった記憶と情動はただセットになっているだけです。
- まず今の自分のフォーム、所作を体感を伴って詳細にイメージします。
- 可能であれば実際に体を動かしても構いません。(あくまでリラックスです)
- その時の情動(恐怖や緊張)をできるだけ俯瞰します。
- 先の別の恐怖と同様に可能であれば情動の強さ、大きさをいろいろ変えてみましょう。
(今自分はこんなことを感じているのか?と他人事、ちょっと無関心なイメージでしょうか) - そして理想的なフォーム、所作の映像を繰り返し見ます。(事前に用意しておいて下さい)
- ただ観るだけでは臨場感が足りません。
- ”映像を観る”のではなく、その人の情動、心理状態、五感で感じているであろうものを全て感じるようにします。
- 同時には難しいと思いますので、まずはその人の五感をコピーします。
- 何を見て、どんな声、歓声を聞いて、どんな風を感じているのか?
- その際、どんなことを考えているのか?
- どんな情動を楽しんでいるのか?
- その緊張感、ワクワク感が自分の身体に現れるまで続けてみてください。
- ある程度繰り返すと映像を見なくてもその体感を感じることができるようになります。(リラックスは必要です)
- この体感を保ったままイメージを自分のいつもの体感に移行します。
- 初めは急にいつもの自分の体感に戻ると思いますが心配いりません。
- 繰り返し行っていくと自分のいつもの体感にお手本としたい理想的な体感、マインドが上書きされます。
⑤動作の先のゴールに結びつける
ネガティブな恐怖は目の前の問題から目を背けられなくします。
情動に直結した恐怖は感情的なものであることがほとんどです。
一方、ポジティブな恐怖は自分らしくプレーできないなど前向きなものです。
ですが極度に自分らしさ、周りからの信用、自負心などを意識してしまうとその自分で作り出した感情に囚われてしまいます。
初めのうちは自分に向き合っていたつもりがいつの間にか自分の評価や結果ばかりが気になてしまっている状態になっているケースが見受けられます。(私も音楽活動で何度も経験しました)
先ほどの具体的なワークと並行して最後にお勧めしたいのが、あなたがお手本としたい憧れの人のゴールを観察してみるということです。
- この人は何のためにやっているのか?
- どんなところに面白さを感じているのか?
- 誰にどんなことを伝えたいと思っているのか?
など競技の枠を超えてその人の在り方を観察していくことで得られる気付きが必ずあるはずです。
直接の知り合いである必要はありません。
その人のゴールに触れるということは生き方に触れるということです。
圧倒的にすごい人を自分の中で深く考える(感じる)だけでも、自分の盲点(スコトーマ)が外れたり、自分のエフィカシー(自己評価)をさらに上げることは十分可能です。(というかよくあります)